もう少し知りたい家族信託

もうすこし知りたい家族信託

家族信託についての用語の説明や知っておくとさらに安心できる知識などをご紹介いたします。

受益者代理人・信託監督人

家族信託契約の当事者は基本的には委託者・受託者・受益者の三者で構成されます。ここではこの他、家族信託契約の委託者の意思や受益者の権利保護のため追加できる受益者代理人と信託監督人についてご説明したいと思います。
1)受益者代理人
信託法139条1項には『受益者代理人は、その代理する受益者のために当該受益者の権利(第四十二条の規定による責任の免除に係るものを除く。)に関する一切の裁判上又は裁判外の行為をする権限を有する。ただし、信託行為に別段の定めがあるときは、その定めるところによる。』とあります。つまり受益者代理人は信託法や信託契約で決められたことに従って受益者ができることは受益者代理人もできるということです。環境に合わせて信託契約の内容を変更したり、受託者の信託事務を監視したり、かなり広範囲な権限を有します。認知症対策のための家族信託、いわゆる福祉型信託のような受益者の判断能力が将来失われる可能性があるような場合には特に必要です。

 

受益者代理人になれない人は次の人です。
〇未成年者
〇成年被後見人
〇被保佐人
〇当該信託の受託者
上記以外の人は誰でも受託者代理人になることができます。
また、前述のとおり受益者代理人の権限はかなり広範囲にわたりますので、受益者代理人が選任された場合は、本来の受益者の権限は信託法92条に定められた事だけに縮小されます。
受益者代理人は信託契約で定めることとなっています。ですので、信託契約の内容で、受益者代理人をどの時点から就任させるかを決めることになります。信託契約の当初からなのか、受益者の判断能力が衰えてきた時なのかを自由に契約できめることができます。

2)信託監督人
信託監督人も受益者代理人と同様に、受益者の権利利益の保護を目的としています。
受益者代理人が信託契約全体を見渡せるポジションで権限を発揮できるのに対し、信託監督人は対受託者との関係性でその権限を発揮します。
受託者がきちんと託された財産を不正なく管理、運用しているかを監視、監督します。
信託監督人の選任は信託契約で定める場合と、利害関係人が裁判所に請求して信託監督人を選任してもらう場合の2とおりあります。信託監督人になれる人は、受益者代理人と同様
〇未成年者
〇成年被後見人
〇被保佐人
〇当該信託の受託者
上記以外の者であれば誰でも就任できます。
報酬:受益者代理人も信託監督人も信託契約で定めることによって報酬の有無やその額を設定することが可能です。

家族信託を使うときの大前提は『信頼できる家族(親族)がいること』です。受益者代理人も信託監督人も、その信頼に厚みを持たせる存在です。

指図権

家族信託の大きな特徴のひとつに指図権があります。これは託された信託財産の運用方法について託した人(委託者)が指図できる権利です。代表的な指図権としては自社株信託をする時です。

家族経営の会社で自社株(未公開株)を全部持っている社長である父親が認知症対策として自社株を息子に信託したとします。それによって会社の実権は息子に移りますが、父親としては認知症等で判断能力が衰えるまでは会社の経営に携わっていきたいと思っています。そこで信託契約の内容で議決権行使の指図権者として父親を指定しておけば、父親の影響力を残したまま息子に会社の運営を任せることができます。いざ父親の判断能力が衰えてきた場合は、父親は指図権を行使せず、そのまま息子の意思で議決権行使をすることができます。

追加信託

信託したい財産はたくさんある。けれども一度に全てを任せるのは少し不安がある。そういった場合、追加信託という機能があります。財産を託す側の人(委託者)は信託する予定の財産の一部分だけを預けて、財産管理の様子をみながら徐々に信託する財産の額を増やしていく方法です。

金銭の追加信託:金銭の追加信託については、家族信託の契約書の中で定めておけば、委託者が現金を信託口口座に振り込むことによって、その振り込まれた金額については信託財産に組込まれたものとみなすことができ、比較的容易に追加信託することができます。

不動産の追加信託:不動産についての追加信託は、当初の信託契約書に不動産の追加信託ができる旨の条項を定めておき、新たに追加する信託財産について信託契約書を作成し、登記手続きをすることになりますので金銭の追加信託よりも手間と時間がかかりますし、委託者の意思能力も必要です。

遺言書と家族信託どちらが優先?

家族信託をお考えの方で『遺言と信託が両方あって、その内容が矛盾していたらどちらが優先するのか?』と疑問に思う方もいらっしゃいますよね。
例えば父親が自宅不動産を家族信託で長男に信託し、帰属権利者も長男とした後に、遺言書を作成して、自分の死後は自宅不動産を次男に相続させるとした場合。
①家族信託契約で自宅を長男に信託、帰属権利者も長男②遺言で自宅を次男に。
という順番ですね。この場合、①の時点で自宅不動産の名義を長男に渡していますので、その後②で自宅不動産を次男に渡すとしていても、自宅不動産はすでに長男の物になっていますので、長男の物について遺言書での指定はできないので、結果的に家族信託が優先されます。
では順番を逆にしてみます。

 

自分の死後、自宅不動産は次男に相続させるという遺言書を作成したあと、家族信託で自宅を長男に信託し、帰属権利者も長男にした場合。
①遺言で自宅を次男に②家族信託契約で自宅を長男にという順番ですね。

 

民法1023条 前の遺言が後の遺言と抵触するときは、その抵触する部分については、後の遺言で前の遺言を撤回したものとみなす。
2 前項の規定は、遺言が遺言後の生前処分その他の法律行為と抵触する場合について準用する。
と、民法で規定されており、それゆえ遺言は、後から何度でも変更できるという特色を持ちます。変更する場合、新たに遺言書をしたためるという方法もあります(これが1023条1項ですね)が、遺言書に記した財産を生前に遺言を書いた人が売却などして処分してしまった場合(これが1023条2項です)は、その財産については遺言を撤回したものとみなされます。上記の例では、遺言書で次男に相続させると書いていても、それは確定してはおらず、家族信託で名義を長男に移転することで、生前に遺言書の内容を撤回したこととみなされ、結果的に家族信託が優先することになります。

以上、①②の順番に関わらず、特に家族信託契約の内容に別段の定めがなければ、家族信託が優先されることとなります。

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