○遺産分割協議書とは
遺産分割協議書は、亡くなられた方の相続人同士で相続財産を『誰が』『どの財産を』『どのくらい』相続するかを明らかにするための書類です。遺産分割協議書は法的に必ず作成しなければならないものではありませんが、実際に相続財産を分配するにあたって必要になってくる場面が多い書類です。
〇遺産分割協議書が不要な場合と必要な場合。
遺産分割協議書が不要になるケースとしては、相続人が1人である場合。また、相続人が複数いる場合でも、遺言書があり、その遺言書の通りに全ての遺産を相続することについて、相続人から異議がでない時などです。
それ以外の場合には、遺産分割協議書が必要となってくるケースが発生します。ではその場合、どのような場面で必要になってくるのか、例示いたします。
【相続人が複数で、遺言書がない又は遺言書のとおりに遺産分割しない場合で遺産分割協議書が必要な場面の例】
●不動産を相続した場合、その不動産を自分名義に移転させるために、登記窓口である法務局から遺産分割協議書の提出を求められます。
●預貯金を相続した場合、口座にはいっているお金をおろしたり、定期預金を解約したりするために遺産分割協議書を銀行から求められます。
●有価証券を相続した場合、名義変更のため、銀行、証券会社などに遺産分割協議書を求められます。
●普通自動車を相続した場合は名義変更のため相続した人の住所地を管轄する運輸支局から提出を求められます。
●相続税の申告を行う場合、税務署から遺産分割協議書の提出を求められます。
※なお、法定相続分どおりに相続する場合、遺産分割協議書は必要とはなりませんが、その場合、不動産は相続人間で共有となってしまいます。また、銀行の手続きについてもスムーズに進まないことがありますので、法定相続分で相続する場合にも、1度、遺産分割協議書の作成は検討したほうが良いと思います。
※また、遺産分割協議書には通常、相続人全員の署名と実印が押されて完成となりますので、あとから相続人同士で言った言わないの争いを予防することができます。
1 遺言書を探す
亡くなられた方が、遺言書をのこしていた場合には遺産分割協議書が不要になることがあります。そのためにまず遺言書を探さなければいけません。公正証書として残されていた場合は、公証役場に保管してありますが、自筆証書遺言で残されている場合は、法務局や銀行の貸金庫、自宅などをまず探してみるとよいでしょう。もしかしたら亡くなられた方が誰かに遺言書の存在とその所在を話している場合もありますので、知人、友人への聞取りも有効です。
2 相続人調査
つぎに誰が相続人であるのかを確認しなければなりません。そのため次の戸籍謄本等を用いて相続人を確定します。・亡くなられた方の出生から死亡するまでの戸籍謄本、除籍謄本、原戸籍謄本
(これらを収集することによって亡くなられた方の両親、配偶者、子が判明します)
・相続人全員の戸籍謄本。
(亡くなられた方の戸籍謄本とのつながりを確認します。また生存や死亡している証明となります)
・兄弟姉妹が相続人となる場合、亡くなられた方の両親の出生から死亡までの戸籍謄本、除籍謄本、原戸籍謄本。
(兄弟姉妹を調べるときは、亡くなられた方の両親の子が何人いるかを調べます)
上記のように必要な全ての戸籍を収集したら、それらを『相続関係説明図』という、相続に関係する範囲の人の家系図のような表を作成します。これによって相続人の見落としなどを防止します。
未成年者は遺産分割協議に参加できないので、原則的には親権者である親が代わりに参加することになっています。しかし遺産分割の場合、親も相続人となっていることがほとんどです。その場合は、未成年者のために特別代理人の選任を家庭裁判所へ申請しなければなりません。
認知症や知的障害のために、判断能力がなかったり、著しく不十分であったりする場合は、その方のために成年後見人を選任しなければ、遺産分割協議が無効になることがあります。成年後見人をつけてしまうと、原則的にはその方が亡くなるまで後見人を外すことができません(後見人への報酬が発生しつづけます)。遺産分割のために後見人を付ける場合は、本当に必要かどうかの見極めが大事になります。
成年後見人をつけない方策としては、法定相続分どおりに遺産を分割する、あえて遺産分割の手続きをしないなどの方法がありますが、あまりお勧めはできません。
もしご自身の推定相続人の中に、認知症や障害をもたれている方がいる場合は、遺言書を作成し、こまかく財産の相続分を指定しておくと、遺産分割なしで相続手続きができるようになります。
3財産調査
亡くなられた方の財産の総額を確定させます。
自宅などの不動産・預貯金・株式・債権・自動車などはもちろんですが、負債も相続財産となります。負債の額は、相続放棄や限定承認をする場合、考慮される要素になります。また相続財産の総額は遺留分の算定にも関係してきますので、ここでしっかりと確定しておきます。
財産の総額が確定したら、それらすべてを『財産目録』にまとめて記載します。
4上記『2』と『3』で作成した相続関係説明図と財産目録ができましたら、いよいよ遺産分割協議となります。
この協議において相続財産を誰がどの財産をどのくらい相続するというように確定させます。相続人全員が協議内容に納得されましたら、協議書へ全員が署名押印して遺産分割協議書が完成します。
5遺産分割協議書を使って、財産をそれぞれの相続人へ移転させる
不動産の所有権移転登記や預金の払戻や解約など、それぞれの窓口で提示することとなると思います。遺産分割協議書と並んで、相続人と亡くなられた方の戸籍謄本も提出を求められることがありますので、手続き窓口が多数にのぼる場合は法務局にて法定相続情報一覧図を作成しておくと、いちいち戸籍謄本の束を持ち歩いたり、戸籍謄本の返却待ちをしなくてもよくなります。
相続情報一覧図は、法務局が公的にその記載事項を事実と認めた相続関係説明図のようなものです。相続関係説明図は一般の人や専門職である弁護士や司法書士、行政書士などが、遺産分割などのために作成する、いわば相続人向けの書類です。相続情報一覧図はそこに法務局の承認をのせることによって、相続人以外の第三者(法務局や銀行、証券会社、保険会社、陸運局など)に対しても内容を保証できる書類です。
戸籍謄本などは数人分となると、それなりの厚さと重量になります。法定相続情報一覧図は相続関係が1枚にまとめられています。また足りなくなった場合は期間内(申請日の翌年から5年間)であれば法務局にて無料で発行してもらえます。